青森県 > 白神山地 > 白神山地

白神山地

(しらかみさんち)

神秘の原生林で生命の息吹を感じる

白神山地は、青森県から秋田県にかけて広がる山岳地帯の総称であり、1993年(平成5年)12月に屋久島とともに日本で初めてユネスコ世界遺産(自然遺産)に登録されました。その登録理由には「人の影響をほとんど受けていない原生的なブナ天然林が世界最大級の規模で分布している」と明記されており、自然の神秘を今に伝える地域として世界的に高く評価されています。

地質と地形

白神山地は、約9,000万年前の白亜紀に形成された花崗岩を基盤としており、約2,000万年前から1,200万年前の海底火山活動によって堆積した凝灰岩や泥岩、砂岩などの地層から成り立っています。そのため、険しい山岳地帯が広がり、標高300mから1,243mの向白神岳に至るまで多彩な地形を有しています。

この山地全体の面積は約13万ヘクタールに及び、そのうち約1万7,000ヘクタールが世界遺産に登録されています。青森県側が約74%を占め、残りが秋田県に広がっています。世界遺産地域は中央の核心地域と周辺の緩衝地域に区分され、自然を守るために開発は行われず、現状のまま保護されています。

名称の由来と歴史

かつては「弘西山地」と呼ばれることもあり、地元の人々の間では古くから親しまれてきました。江戸時代の紀行家・菅江真澄の記録にも「白髪が岳」として記述があり、これが「白神山地」という呼び名につながったとされています。20世紀には林道建設反対運動を通じて「白神山地」の名称が広く浸透し、やがて行政資料にも正式に記載されるようになりました。

十二湖

白神山地内にはブナ林に囲まれた33の湖沼群があり、総称して「十二湖」と呼ばれます。十二湖は、1704年の大地震によってできたと言われています。中でも有名なのが「青池」です。鮮やかなコバルトブルーに輝くこの池は、水中に朽ちたブナの大木が横たわり、池底に倒れた木が見えるほど透明でありながら、インクを流したようなはっきりとした青の湖面が神秘的です。

同じように青色の湖水が美しい「沸壷の池」の湧水は、「青森県の名水」「平成の名水100選」にも選ばれています。

十二湖庵でのひとやすみ

落口の池の前にある茶屋「十二湖庵」では、名水「沸壺池の清水」で淹れた抹茶とお菓子を無料で提供しています。ただし、こころざし箱に気持ちを入れていただけると、今後の運営のためになるそうです。森林浴をしながらのハイキングの途中に立ち寄ると、オアシスのような癒しを感じながら、ひとやすみすることができます。

絶景スポット・日本キャニオン

十二湖へ向かう途中には絶景スポットがあります。それが、日本キャニオンです。長い年月をかけて浸食された山の岩肌がむき出しになっており、周囲の木々に映える白い岩肌の断崖が美しく、アメリカのグランドキャニオンに似た光景を見ることができます。

セラピーロード

また「十二湖の森」には、4つのおすすめセラピーロードが設定されています。時間や体力に合わせて、青池・沸壺の池コース、金山の池ショートコース、金山の池・糸畑の池ロングコース、王池のコースの中から、自分に合ったコースを選んで歩いてみるのもおすすめです。

森の物産館キョロロ

十二湖の近くに位置する「森の物産館キョロロ」では、軽食やお土産の販売などを行っており、山へのトレッキングやハイキングの拠点として親しまれています。JR十二湖駅からも路線バスが出ているため、車がなくてもアクセス可能です。ハイキングの途中に立ち寄って、ゆっくりと休憩することができます。

十二湖リフレッシュ村

「十二湖リフレッシュ村」は、十二湖のほとりにあるキャンプ場です。ログハウスやテントサイトでキャンプを楽しむことができます。特に、フィンランドのアカマツを使用した本格的なログハウスは、リゾート気分を盛り上げます。また、十二湖まで徒歩圏内であり、白神山地の観光も満喫することができます。

白神山地の自然

ブナの原生林

白神山地の象徴は何といっても世界最大級のブナ天然林です。このブナ林は最終氷期が終わった約1万年前に形成され、約8千年前には現在のような広大な姿となりました。ヨーロッパや北米のブナ林は氷河期によって多くが失われましたが、日本列島は大陸氷河の影響を受けなかったため、多様な生態系を維持しながら残ることができました。

特に「泊の平」と呼ばれる二ツ森・摩須賀岳周辺のブナ林は、原始林またはそれに近い姿を残す貴重な存在です。伐採など人為的な影響をほとんど受けず、約8千年もの間、純度の高い森林生態系を維持してきた点が世界的にも稀有といえます。

植物の多様性

白神山地では540種を超える植物が確認されています。ブナを中心に、カツラやアサダ、ハリギリなどの巨木が林立し、足元にはチシマザサが一面に広がります。他の地域では人工林に置き換えられてしまったブナ林も、この地では自然のままに残されています。険しい地形と厳しい保護体制が、この豊かな自然を守り続けてきたのです。

動物たちの生息

白神山地には約4,000種の生き物が確認されており、その多様性は驚くべきものです。特に鳥類では、天然記念物のクマゲラがブナ林に巣を作り、イヌワシやクマタカ、シノリガモなど希少種も生息しています。

哺乳類

ニホンツキノワグマ、ニホンカモシカ、ニホンザルなどが暮らしており、秋田県内では白神山地が唯一のサルの生息地となっています。近年は農作物被害も懸念されており、観光客に対して「野生動物に餌を与えない」よう呼びかけがなされています。また、かつて絶滅したとされていたニホンジカも再び姿を現し、その定着が生態系に影響を与える可能性が指摘されています。

昆虫類

白神山地では2,300種以上の昆虫が確認されており、なかには新種も含まれています。こうした昆虫相の豊かさは、ブナ林が長い年月をかけて育んできた生態系の健全さを物語っています。

保護と課題

世界遺産登録以降、白神山地の核心地域は厳しく保護され、開発や伐採は一切禁止されています。狩猟や漁業も原則として規制されており、地域の伝統文化であったマタギによる狩猟も禁止されました。このことについては、文化の継承が途絶えるとの批判もあり、自然保護と伝統文化の共存をどう図るかが課題となっています。

また、近年は気候変動の影響や外来種問題も懸念されており、自然環境をどのように未来へ受け継ぐかが注目されています。白神山地は単なる自然遺産ではなく、人類にとって貴重な「自然と共生する道」を考える場でもあるのです。

白神山地の魅力

登山と散策コース

白神山地には多様な散策コースや登山コースが整備されており、初心者から経験豊富な登山者まで楽しむことができます。登山家の根深誠氏によれば、特に眺望が素晴らしい場所として天狗岳、小岳、二ツ森、白神岳が挙げられています。雄大な自然と美しい景色を同時に味わえることから、多くの登山者に人気のエリアです。

ただし、世界遺産の核心地域は自然保護の観点から制限が設けられており、整備された登山道は主に青森県側に限られています。東北森林管理局は秋田県側からの登山目的での入山を自粛するよう呼びかけており、訪れる際には最新の情報を確認することが大切です。

白神岳

白神岳(しらかみだけ)は標高1,231.9メートルの山で、白神山地の象徴的な存在です。山頂からは、ブナの原生林や遠くの山々を一望できる絶景が広がります。登山道はいくつか整備されており、体力や経験に合わせてコースを選ぶことができます。

白神岳登山道の主なコース

これらのコースは、それぞれ異なる表情を見せる自然を体験できるため、登山者から高い支持を集めています。

太夫峰

太夫峰(たゆうみね)へは「一ツ森自然観察歩道」が整備されており、中級者向けの登山コースとして人気です。道中では豊かな森林の景観を堪能でき、自然観察にも最適な環境が整っています。

津軽峠とマザーツリー

津軽峠は、白神山地の散策拠点として知られる場所です。ここからは高倉森へと続く登山道が伸びており、アクセスも比較的容易で弘前市からバスで訪れることができます。

津軽峠の象徴的存在であったのが「マザーツリー」と呼ばれる樹齢400年のブナの巨木です。残念ながら2018年の台風の影響で幹が折れてしまいましたが、今もなお多くの人にとって白神山地の象徴的な存在であり続けています。

暗門滝

暗門滝(あんもんのたき)は三つの滝から成り立つ迫力ある滝群で、世界遺産緩衝地域内に位置しています。散策ルートとして「暗門渓谷ルート」が整備されており、駐車場やバス停から第一の滝まではおよそ30分、第三の滝までは片道1時間ほどで到達可能です。滝への道中では、ブナの原生林を間近に観察できる遊歩道も整備され、自然の魅力を存分に感じられます。

二ツ森

二ツ森(ふたつもり)は標高1,086メートルの山で、世界遺産登録地域に隣接しています。登山口からはわずか5分ほどで世界遺産地域に入れるため、観光スポットとしても高い人気を誇ります。山頂からは白神山地の壮大な景観を一望でき、達成感も大きな魅力のひとつです。

釣瓶落峠

釣瓶落峠(つるべおとしとうげ)は青森県西目屋村と秋田県藤里町の境に位置し、紅葉の名所として知られています。秋には秋田杉の緑と紅葉の赤や黄色が織りなす美しいコントラストが広がり、多くの観光客を魅了します。アクセス道路も整備されており、車で訪れやすいスポットです。

岳岱自然観察教育林

岳岱(だけだい)自然観察教育林は、樹齢400年ともいわれる巨大なブナをシンボルとするエリアです。自然観察や教育活動の場として整備され、訪れる人々にブナ林の魅力を伝えています。

白神の森 遊山道

白神の森 遊山道は、JR鰺ヶ沢駅から車で30分ほどの場所に位置する自然体験エリアです。藩政時代から水源の森として守られてきた歴史を持ち、樹齢200年以上のブナが数多く残されています。遊歩道は全長2.8kmで、外回りと内回りの2種類のコースがあり、自然観察や森林浴に最適です。

遊歩道の途中には、クマゲラが開けた穴や熊の爪痕が残る木など、野生動物の痕跡を観察できるスポットもあります。また、聴診器を使って木の内部の音を聞く体験もでき、訪れる人にとって貴重な自然体験の場となっています。

白神山地の歴史と保護活動

白神山地は、かつて薪炭材や鉱山資源の供給地として利用されてきました。しかし、1970年代以降の伐採計画をきっかけに自然保護活動が高まり、多くの市民や団体がブナ原生林の保護を訴えました。その結果、1993年に世界自然遺産として登録され、以降は厳格な保護のもと管理されています。

世界遺産登録後の取り組み

世界遺産登録以降も、自然環境を守るための取り組みが続けられています。環境省や林野庁は監視活動を強化し、違法伐採や樹木の損傷防止に努めています。また、近年はニホンジカの生息確認など新たな課題も生じており、生態系のバランスを保つための調査・研究が進められています。

まとめ

白神山地は、世界に誇る原生的なブナ林を中心に、多様な動植物が共存する奇跡の森です。厳しい自然環境と長年の保護活動が織りなすその姿は、訪れる人々に深い感動を与えます。同時に、自然保護と地域文化の共存という課題を考える場としても重要であり、未来に受け継ぐべき貴重な遺産といえるでしょう。

白神山地は、秋田県から青森県にかけて広がる山々の総称で、この自然の宝庫は、屋久島と並んで1993年に日本で初めてユネスコ世界遺産(自然遺産)に登録されました。

多彩な登山コースや自然観察スポットが整備された自然の宝庫です。歴史的背景や自然保護の取り組みも相まって、訪れる人々に深い感動と学びを与えてくれます。自然との共生を考える場として、今後も多くの人々に愛され続けるでしょう。

Information

名称
白神山地
(しらかみさんち)
リンク
公式サイト
住所
青森県中津軽郡西目屋村田代神田61-1
電話番号
0172-85-2810
アクセス

奥羽本線弘前駅から車で約1時間10分
青森空港から車で約1時間50分
東北自動車道大鰐弘前ICから車で約1時間25分

白神山地

青森県