建築とアートが調和する空間
改修設計を手がけたのは、エストニア国立博物館の設計でも知られる建築家・田根剛氏です。田根氏は「記憶の継承」「弘前積みレンガ工法」「シードル・ゴールドの菱葺屋根」という3つの設計理念を掲げ、歴史と現代が響き合う美術館を創り上げました。
記憶の継承 ― 建物が語る歴史
煉瓦や鉄骨など、可能な限り当時の建材を残しながら耐震補強を施すことで、建築物としての記憶と風景を未来へと繋ぎました。100年以上の時を超えて、当時の職人の技と息吹を感じることができます。
弘前積みレンガ工法 ― 新たな意匠
美術館のエントランスでは、既存の「イギリス積み」に対し、弘前の伝統を生かした「弘前積み」と呼ばれる新しい煉瓦のアーチが迎えてくれます。温もりのあるデザインは、訪れる人々に穏やかな印象を与えます。
シードル・ゴールドの屋根 ― 光が踊る表情
屋根にはチタン製の菱葺板が使われ、太陽光の角度や季節によって黄金色や銀色など多彩な輝きを見せます。これはかつてこの場所でシードル(リンゴ酒)が造られていた歴史にちなんだデザインであり、過去と現在をつなぐ象徴でもあります。
奈良美智と「A to Z Memorial Dog」
この地は、弘前市出身の世界的現代美術家・奈良美智氏と深い縁があります。2002年から3度にわたり煉瓦倉庫で展覧会を開催し、大きな反響を呼びました。その活動の象徴として、現在の美術館エントランスには奈良氏の作品「A to Z Memorial Dog」が展示され、来館者を優しく迎えています。この作品は当時のボランティアへの感謝を込めて寄贈されたもので、地域とアートを結ぶ象徴的な存在です。
展示と活動 ― 地域と世界をつなぐアートの場
弘前れんが倉庫美術館では、年間を通して国内外のアーティストによる企画展が開催されています。奈良美智やジャン=ミシェル・オトニエルなど、現代アートの第一線で活躍する作家の作品を鑑賞することができます。展示は3つのプログラムに分かれており、訪れるたびに新たな発見があるのも魅力のひとつです。
また、市民が自由に創作活動を行えるスタジオや、芸術関連書籍を集めたライブラリーも併設され、芸術を身近に感じることができる空間が広がっています。地域と世界をつなぎ、創造的な交流を生み出す「文化創造の拠点」としての役割を担っています。
かつての酒造工場としての歩み
煉瓦倉庫の起源は1907年(明治40年)に建てられた日本酒の醸造工場「福島酒造」にさかのぼります。その後、リンゴ酒の製造へと発展し、1950年代には朝日麦酒(現アサヒビール)との協力により、日本初の本格的なシードルを製造する工場として知られるようになりました。戦後の産業発展を象徴する建物であり、弘前の近代史を語る貴重な遺産です。
アクセスと利用案内
開館時間・休館日
開館時間は9:00〜17:00、休館日は毎週火曜日(祝日の場合は翌日振替)および年末年始です。
アクセス
JR弘前駅中央口から弘南バス「100円バス(土手町循環)」で「中土手町」下車徒歩5分、または「住吉入口」下車徒歩2分。徒歩では約20分、タクシーなら7分ほどです。
思いやり駐車場(2台)のほか、提携駐車場も利用できます。
まとめ ― 記憶と創造が交差する美術館
弘前れんが倉庫美術館は、過去の産業遺産を未来へと継承しながら、現代アートを通して地域に新たな息吹を吹き込む場所です。赤れんがの温もりと現代建築の洗練が融合した空間で、訪れる人々は歴史・文化・芸術の交差点に立ち会うことができます。
弘前を訪れた際には、ぜひこの美術館で「時を超えた記憶の物語」に触れてみてください。